「キタ先生」と呼ばれたくて。元プロ野球選手の父から受け継いだ名前と、訪問マッサージという選択

INTERVIEW

  1. キタ訪問マッサージ鍼灸院
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  3. 「キタ先生」と呼ばれたくて。元プロ野球選手の父から受け継いだ名前と、訪問マッサージという選択

PROFILE

キタ訪問マッサージ鍼灸院

院長 北村 憲司 (きたむら けんじ)

あん摩マッサージ指圧師/はり師/きゅう師

080-5107-0009
  • 所在地 愛知県小牧市東四丁目176-1 モントレゾールⅢ 201号
  • 対応エリア 小牧市、春日井市、犬山市、扶桑町、大口町、江南市、岩倉市、北名古屋市、一宮市、清須市、名古屋市北区・西区など
  • 受付時間 平日 8:00〜18:00

幼少期から野球に打ち込み、怪我をした際に父親から鍼灸マッサージやリハビリを受けた経験をきっかけに、治療家を志す。高校卒業後、専門学校で学び、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の国家資格を取得。接骨院や鍼灸院で10年以上にわたり経験を積んだ後、2018年8月に愛知県小牧市で「キタ訪問マッサージ鍼灸院」を開院。

現在は訪問マッサージと機能訓練を中心に、患者様一人ひとりの身体の状態や生活に寄り添った施術を提供。「こうしたい」「こうなりたい」という患者様の想いを大切にしながら、身体機能の維持・向上や転倒予防に取り組んでいる。

愛知県小牧市を拠点に、名古屋市北区・西区から犬山市、一宮市まで、ご自宅や施設へ伺っている「キタ訪問マッサージ鍼灸院」。院長の北村憲司(きたむら・けんじ)先生は、元プロ野球選手で鍼灸師になった父の元で育ちました。

院名の「キタ」は、患者さんから「キタ先生」と呼ばれていた父の治療院から受け継いだものです。「僕もそう呼ばれたいなと思って」と北村先生は話します。

1日100人以上が訪れる接骨院で7年あまり経験を積み、2018年8月に訪問専門で開業しました。「僕らのやりたいことより、患者さんがどうなりたいか」を何より大切にする北村先生に、これまでの歩みと訪問への思いを伺いました。

食卓の壁1枚向こうは、父の治療院

北村先生は1990年、岐阜県各務原市に生まれました。各務原市は30〜40年ほど前に切り開かれた新興住宅地で、「田舎ですけど、自然豊かなところです」と言います。2人兄弟の長男で、子どものころは活発で、ちょっとおっちょこちょい。思ったことはすぐ行動に移す、いかにも男の子らしい少年だったそうです。

ご実家は、父が営む自宅兼治療院でした。

「本当に自宅の食卓の隣の壁1枚先で、父が働いているという状況でした」

家の中には、もぐさの匂いがいつも漂っていました。電話が鳴れば、父は食事の途中でも箸を置いて患者さんのもとへ向かいます。そのまま夜遅くまで患者さんの施術対応をする父の姿を陰ながら見ていました。のちに北村先生が施術者の道を選ぶことと、どこかでつながっているのかもしれません。

元プロ野球選手で、鍼灸師。 父のもとに集まる野球少年たち

父には、鍼灸師になる前の顔がありました。元プロ野球選手です。引退後に鍼灸の免許を取り、自宅で治療院を開きました。

「元プロ野球選手の鍼灸師なんて、当時はほとんどいなかったと思います」

「野球を教えてほしい」「けがを診てほしい」。
父のもとには、野球少年たちが次々と訪ねてきました。

北村先生自身も、小学校から高校3年まで約10年間、野球一筋でした。ポジションはキャッチャーです。「同級生に比べて体が大きかっただけでキャッチャーをやらされていました」と笑います。チームは県内でも上位に入る強豪でした。一方で北村先生は「1軍半ぐらいの選手でした」と振り返ります。プロ野球選手の夢は、小学生のうちに「これは無理だな」と悟ったそうです。小学生のころは父がチームのコーチを務め、周りからは「プロ野球選手の息子」とよく言われました。

捻挫は数えきれないほどしました。そのたびに父の施術を受け、試合の前にも体を整えてもらってグラウンドに立ったといいます。施術を受ける側の気持ちを、北村先生は子どものころから肌で知っていました。

スポーツトレーナーを夢見て、父と同じ学び舎へ

高校卒業が近づいたころ、北村先生が思い描いていたのはスポーツトレーナーでした。父の背中を見て育ち、自分自身もスポーツに打ち込んできたからです。

通っていた高校は、ほぼ全員が大学へ進む進学校でした。専門学校へ進むのは学年で10人もいません。「なんで専門学校に行くのか」と周りから言われたそうです。それでも、父の「ここに行け」という一言で、進学先は決まりました。愛知県稲沢市の中和医療専門学校です。父も学んだ学校で、親子2代、同じ学び舎で学ぶことになりました。

ところが入学してから、学校にいたトレーナーに話を聞いて、トレーナーの道がとても狭いことを知ります。スポーツでの実績や推薦がないと、スタートラインにすら立てないというのです。

「あ、無理なんだ、俺と思いました」

夢は変わりましたが、試験勉強だけは本気でした。苦手は解剖学と生理学です。国家試験の前の半年間は、毎日図書館に通い詰めました。

「めちゃめちゃ対策して受けたら、その年の国家試験が過去の年度と比較して簡単な年だったらしくて。これは絶対受かったと思いました」

結果は一発合格。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の3つの国家資格を手にしました。

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1日120人。繁盛接骨院で積んだ「数」の修業

資格を取った翌月から、名古屋市内の接骨院で働き始めました。
同じクラスの友人が勤めていて、社員寮がある職場でした。職場を選んだ理由を尋ねると、北村先生は率直に話してくれました。

「つらい人の役に立ちたい、いろんな症状を何とかしたいという気持ちは、もちろんありました。でも半分は、若かったので遊びたいとか、一人暮らしがしたかったからとか(笑)

北村先生の院のホームページには、「身体の事で悩んでる人の助けになりたい」という思いを胸にこの道へ進んだ、と綴られています。原点は、怪我のたびに父の施術を受けてきた経験です。きれいな言葉だけで済ませず、当時の本音まで話してくれるところにも、北村先生の人柄がにじみます。

1日に100人から120人が来院する、地域でも評判の接骨院でした。受付は朝8時から12時と、夕方4時から8時。間にお昼休憩はありますが、「あってないようなもの」だったそうです。8〜10人ほどの施術者が1人1台のベッドを受け持ち、次々と患者さんを迎えます。

「数をこなせたのは、目的としては良かったと思います。いろんな人を診ることができたので」

決まった師匠はいません。父からも施術を教わったことは一度もありません。「施術の技術はおまえ自身で掴め」と言われていたからです。

「こういう手技をやったらどうかなとか、自分で考えて、ひたすら試して。試行錯誤でしたね」

院内では毎週木曜日に勉強会があり、知人の紹介で別の治療院の勉強会にも通いました。保険の書類づくりも任され、制度の仕組みを現場で覚えていきました。この経験が、のちに訪問で同意書などの手続きをすべて院で引き受ける土台になっています。

「あんたは嫌だ」。言葉遣いを見直した日

順調に見える修業時代にも、忘れられない出来事があります。働き始めて1年目のことです。ある患者さんから、目の前ではっきりとこう言われました。

「あんたは嫌だ。別の人に代わって」

前回の施術が、その方にとって満足のいくものではなかったようです。まだ駆け出しの施術者にとって、目の前で交代を告げられることが、どれほど重い出来事だったかは想像に難くありません。それでも北村先生は、その言葉から目をそらさず、当時の自分をこう振り返ります。

「正直、ちょっと調子に乗っていたと思います。態度も良くなかった。その方に悪気があったわけではなくて、本当に嫌だったんだなと」

相手を責めるのではなく、まず自分自身に原因を求める。その素直さこそが、北村先生の歩みを大きく変えていきます。

訪問マッサージは、患者さんのご自宅という、最もプライベートな空間に伺う仕事です。どれほど確かな技術を持っていても、「この人に来てほしい」と思っていただけなければ、施術を始めることさえできません。

とはいえ、技術は一朝一夕には上がりません。そこでまず、自分で今すぐ変えられることから始めました。それが、言葉遣いと態度です。

「とりあえず謙虚になろうと思って。言葉遣いや接し方を、そこから改めました」

技術を磨くには時間がかかります。しかし、相手への敬意を言葉や態度で示すことは、今日からでもできる。北村先生は、その当たり前のようでいて難しいことに、真正面から向き合いました。

初めてお会いする方への話し方や身だしなみを、今も何より大切にしている北村先生。患者さんやご家族が初対面で感じる安心感は、こうした一つひとつの積み重ねから生まれています。その原点は、1年目のあの日に受け取った、厳しくも大切な一言にあります。

初めての訪問施術。「この患者さんのために、自分は何ができるのか?」

訪問マッサージの存在を知ったのは、接骨院に勤めていたころです。専門学校の同級生が訪問マッサージをしていて、「この患者さんのところに行ってくれないか」と声をかけてくれました。初めて伺った日のことは、今もよく覚えているそうです。

「接骨院でもご高齢の方は診ていたので、似たような症状の方かなと思っていたら、本当に動けない方で。支えてあげないと転んでしまうぐらい重度の方でした」

更にその方には認知症もありました。北村先生にとって、認知症の方と接するのはこのときが初めてです。どこがつらいかを尋ねても、答えがかみ合いません。

「この方が良くなるためには何が必要なんだろう、と考えているうちに、あっという間に時間が終わってしまいました」

同行した同級生に相談すると、こんな答えが返ってきました。認知症がある以上、伝わらない前提で話したほうがいい。こちらがしっかり主導しないと、相手も不安になる。自信を持ってやれば大丈夫だ、と。

「良くなるためには、という基本は変わらない。でもアプローチの仕方がまったく違うんだと気づきました」

次の訪問施術からは、一人で伺うようになりました。

「治す」より「良くする」。心が軽くなった考え方の転換

接骨院内の施術と訪問施術とで、いちばん違うのは何か。北村先生の答えは明快です。

「接骨院は、治してほしい人が来る場所です。腰痛を早く何とかしてほしい、ぎっくり腰を今すぐ楽にしてほしい。すぐに結果を求められます」

訪問では、今の状態をできるだけ保つことが目標になる方も少なくありません。

「治すより、良くする。言葉は似ていますけど、似ていないんです。最初は、治すことが良くなることじゃないって、どういうことだろうと疑問でした」

もともと物事を突き詰める性格です。思うような変化が見えないと、
「全然だめだな、俺…」と自分を責めてしまいました。

考え方が変わったのは、患者さんの小さな言葉がきっかけでした。
「立ち上がりが楽になったよ」。昨日より少し動きやすそうに見える、その方の姿。

「そういうので良いんだ、と思えたら、施術も楽しくなって、心も楽になりました」

もちろん、少しでも楽にしてあげたいという気持ちは今も変わりません。ただ、そればかりを追いかけると、施術者の心のほうが疲れてしまいます。

「僕が来るだけで『ありがとう』と言ってくださる方もいます。治すことにフォーカスしすぎないほうが、お互いにいいのかなと思っています」

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父と同じ「キタ先生」に。2018年、小牧市内に開業

2018年8月、北村先生は独立します。初めは自費の治療院を開くことも考えましたが、思い直しました。

「自分のあん摩マッサージ指圧や鍼灸が、いちばん生きる形は何だろうと考えたときに、あ、訪問マッサージがあるじゃん、と」

結婚を控えた時期でもありました。家族を支える立場になる以上、腰を据えて取り組める仕事にしたい。頑張った分だけ結果が目に見える働き方にも、大きなやりがいを感じたといいます。勤め先で担当していた訪問の患者様も、ご希望を受けて独立後に引き続き担当することになりました。

院名は「キタ訪問マッサージ鍼灸院」に決めました。「訪問マッサージ」を前面に出したうえで、頭に実家の治療院の名前をつけています。

「父は患者さんから『キタ先生』と呼ばれていたので、僕もそう呼ばれたいなと思って。名前を継いであげないと、父がかわいそうかなという気持ちもありました」

拠点に選んだのは、縁もゆかりもない小牧市でした。担当している患者さんは名古屋に多い。岐阜からでは遠すぎる。かといって名古屋に近すぎると、奥様の職場から離れてしまう。その中間地点が小牧だったのです。

実は開業と同時に、奥様にプロポーズもしました。翌年、元号が令和に変わったその日に入籍しています。

朝の渋滞と、抜け道探しの毎日

小牧で開業して、最初に戸惑ったのは道路事情でした。

「朝の渋滞がすごいんです。抜け道を知らないと、本当に時間がかかってしまう」

 

訪問マッサージの患者さんの多くは、ご自宅で先生の到着を待っています。お約束の時間に遅れれば、患者さんやご家族の一日の予定を狂わせ、不安な思いをさせてしまうことにもなりかねません。

渋滞を理由に、患者さんを待たせるわけにはいかない。その思いから、北村先生は必死に道を覚え、抜け道探しが毎日の日課になりました。

「Googleで調べまくって、どう行けば早く着けるんだって、毎日考えていましたね」

地図を見比べ、別の道を試しては、少しでも早く、確実にたどり着けるルートを探す。そうして一本一本覚えていった道は、今では先生の訪問を支える大切な土台になっています。

お約束の時間にきちんと伺うための、地道な努力です。患者さんを待たせないことは、信頼を築くための第一歩。訪問の仕事は、施術の前から始まっています。

縁もゆかりもなかった小牧で根を張り、8年がたちました。毎朝の道を一つずつ覚えていったように、この街とのつながりも、少しずつ深めてきたのでしょう。この街のいいところを尋ねると、少し考えてから、こう答えてくれました。

「みんな優しいところですかね」

僕らのやりたいことより、患者さんがどうなりたいか

北村先生のもとに寄せられるご依頼は、痛みを訴える方よりも、体が思うように動かしにくくなった方からのものが多いといいます。そんな方々と向き合うとき、いちばん大切にしていることがあります。

「患者さんが何をしてほしいかを、常に感じ取るようにしています。痛みを和らげることももちろんですが、本当は一緒に歩いてほしい、体を動かしたい、ただ話を聞いてほしい、という方もいらっしゃいます」

マッサージを望んでいない方に、マッサージばかりする。話しかけてほしくない方に、たくさん話しかける。それでは意味がない、と北村先生は言います。

「僕らのやりたいことより、患者さんがどうなりたいか。ご家族の希望も含めて伺って、じゃあこういうメニューにしましょうか、と組み立てていきます」

院のホームページにも、「当たり前ですが、患者様の嫌がることはいたしません」と書かれています。目指しているのは、患者さんの「こうしたい、こうなりたい」という思いを形にすることです。

初回には必ず、目標を一緒に決めます。目標は短期、中期、長期に分けて立てます。例えば「この3か月は、これを目安に様子を見ていきましょう」。しばらくたったら、「そういえば立ち上がりはどうですか」と尋ねます。「やりやすくなったね」という声が返ってくれば、「次はこれをやってみましょうか」「少し外を歩いてみましょうか」と、次の目標を提案します。

「目標がないと、何を目指せばいいのか、みんな分からなくなってしまうんです。目標だけは一緒に決めて、そこまでの道のりは様子を見ながら見極めていく。それを大事にしています」

マッサージだけで終わらせない。その先へ・・・

北村先生の施術には、はっきりした方針があります。

「マッサージだけで終わらせるのは好きじゃないんです。マッサージと、体を動かす運動を必ずセットにしています」

立ったり座ったりする動作でも、ベッドの上や椅子に座ったままの運動でもかまいません。その方にできる範囲で、必ず体を動かす時間を取り入れます。寝たきりで意思の疎通が難しい方には、先生が手を添えて、関節をゆっくり動かしていきます。

ご本人やご家族から、「歩く練習をしたい」というご要望をいただくことも少なくありません。

「じゃあ家の周りを一緒に歩きましょうか、と。その手前で、立ち上がりが不安定な方なら立つ練習から始めますし、足腰が弱ってきた方には、できる範囲でスクワットをやってもらうこともあります」

施設では、廊下を使って一緒に歩く練習をすることもあります。
施設のスタッフさんから「体を動かすのを手伝ってほしい」と声がかかることも多いそうです。最近は、ご自宅で暮らす方からのご依頼も増えてきました。

「お節介かもしれないけど」。ある後悔が変えたこと

印象に残っている患者さんのことを尋ねると、北村先生は少し言葉を選びながら、ある後悔の話をしてくれました。

まだ若く、どちらかといえば受け身だったころのことです。よく出入りしていた介護施設に、顔なじみの入居者の方がいました。北村先生が担当している方ではありません。それでも、施設に伺うたびに目に入るその方の様子が、体の調子が良くなさそうだと、ずっと気になっていたそうです。

「思っていただけで、施設の方に全然言えなかったんです。営業っぽく思われるかなと思って」

担当でもない自分が口を出せば、仕事を取りにきたと思われるかもしれない。その遠慮が、ひと言を飲み込ませました。

 

しばらくして、その方が急に歩けなくなったと聞きました。

「なんでもっと早く、『この方、大丈夫ですか』と伝えなかったんだろうと。営業とか関係なく、その方のことを考えてあげればよかったと、すごく思いました」

気づいていたのに、伝えられなかった。あのとき声をかけていれば、何かが変わっていたかもしれない。答えの出ないその問いは、北村先生の心に長く残りました。

この出来事が、北村先生の姿勢を大きく変えました。

もう二度と、あんな後悔はしたくない。お節介だと思われてもいい。それよりも、ご縁のあった方に、少しでも良くなってほしい。

今は、気になることがあれば、すぐに施設の方へ伝えるようにしています。担当しているかどうかは関係ありません。いつも見かけるあの方の歩き方がいつもと違う、表情に元気がない。そんな小さな変化を見逃さず、言葉にして届けることを大切にしています。

「お節介かもしれないですけど、今は『この方、大丈夫ですか』と言っています。施設に出入りしている以上は、心配してあげたほうが、施設のためにも、ご本人のためにもなると思うので」

施術をするだけが、訪問の仕事ではありません。施設に出入りする一人として、そこで暮らす方々を気にかけ、何かあれば声をかける。その「お節介」は、決して余計なものではなく、地域で暮らす方々を見守る、大切な目のひとつです。

担当かどうかではなく、目の前の人を思えるかどうか。北村先生のその姿勢は、若き日の後悔から生まれた、まっすぐな優しさなのだと思います。

たとえ返事がなくても、声をかけ続けます!

嬉しかった言葉もあります。ある日、施術の最中に、ケアマネジャーさんからこう声をかけられました。

「北村先生のところは、すごく丁寧にやってくださるね」

「自分ではそんなつもりでやっていたわけじゃないので、そう見えるんだと思ったら、すごく嬉しかったです。丁寧だと言われたことは、それまでなかったので」

思い当たることが、ひとつだけあります。その方は寝たきりで、意思の疎通が難しい方でした。それでも北村先生は、「大丈夫?」「ここ、痛くない?」と声をかけながら施術を続けていたのです。返事が返ってくることはありません。

「それでも声をかけることで、少しでも何か届けばと思ってやっていました。それを見てくれていたのかなと思うと、やってきたことは間違っていなかったんだなと思えました」

この仕事をしていて良かったと感じるのは、どんなときか。答えはシンプルでした。

「基本的に、感謝しかされないんです。『先生が来てくれてありがとう』と言ってくださったり、会えるのを楽しみにしてくれているおばあちゃんがいたり。伺えば必ず喜んでいただける、本当にいい仕事だと思います」

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初めて伺う日に心がけていること

初めて伺う日は、北村先生が担当のスタッフと一緒に訪問します。ご説明は北村先生が行い、その日に施術を担当したスタッフが、そのまま継続して伺う流れです。

最初にするのは、いちばん困っていることを伺うことです。お話を聞くのは、ご本人のこともあれば、ご家族や施設の方のこともあります。そのうえで、こちらにできることをお伝えし、続けること、いったん控えることを一緒に決めていきます。

初対面で意識していることは、3つあります。

  • 清潔感:「やっぱり見た目は大事なので」
  • 声のトーン:耳が遠い方が多いため、大きく、はきはきと話します。聞こえにくい方には、そばまで近づいてお話しします
  • 言葉選び:専門用語はなるべく使わず、短く分かりやすく伝えます

「本当に簡単なことなんですけど、それがいちばん大事だと思っています」

修業時代に「あんたは嫌だ」と言われたあの日から、北村先生が積み重ねてきた心がけです。

ご家族、ケアマネジャー、主治医とつながる

接骨院では、施術者と患者さんの1対1の関係が基本です。訪問では、ご家族、ケアマネジャー、ヘルパー、主治医と、多くの人がご本人を支えています。北村先生は、その間をつなぐことにも力を注いでいます。院のホームページでも、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、ケアマネジャー、ヘルパーと連携し、「チーム医療の一員として貢献していきたい」と掲げています。

伺った日には、まずその日の体調を確認します。離れて暮らすご家族や、施設に入居されている方のご家族とは、LINEや電話でやり取りします。何か変わったことがあれば、すぐにお伝えするようにしています。

ケアマネジャーさんのもとへは、月に2回ほど足を運びます。報告書をお持ちし、気になることがあれば、その都度ご相談しています。

「ちょっとお耳に入れておきますね、と共有させてもらって。逐一、連絡するようにしています」

健康保険を使った施術に必要な医師の同意書も、院で手続きを引き受けています。通院できる方には、書類を用意してお渡しし、主治医の先生に状態を伝えていただきます。施設などで訪問診療を受けている方の場合は、院から訪問診療の先生へ書類をお送りします。

訪問マッサージは医療保険(健康保険)を使うため、介護保険の支給限度額とは別枠です。デイサービスなど、今受けている介護サービスを減らさずにご利用いただけます。

ケアマネジャーさんにお願いすることは特にありません。手続きはすべて院で対応します。ご相談のお電話から初めての施術までは、だいたい1〜3日です。

ご相談から施術が始まるまでの流れは、次のとおりです。

  1. ご相談:ご自宅や施設に伺い、お話をお聞きします
  2. ご説明と初回の施術:お体の状態を伺って施術の内容を決め、実際に施術を受けていただきます
  3. お手続き:医師の同意書に必要な書類を、院でご用意します
  4. 施術開始:ご要望を伺いながら、継続して施術を行います

週休3日でも地域最高水準の待遇を目指して

現在、キタ訪問マッサージ鍼灸院は、北村先生を含めた3人体制です。スタッフの2人は、北村先生と同じ専門学校の同級生と後輩。学生時代から互いをよく知る仲間と、地域の患者さんを支えています。

スタッフは、それぞれ患者さんのもとへ直接向かい、直接帰ります。顔を合わせる機会が限られる働き方だからこそ、情報はLINEでこまめに共有し、北村先生は毎月一人ひとりと個別に面談しています。困っていることはないか、担当の患者さんの様子はどうか。そして、会社として今どう動いていて、これからどうしていくのかも、その場できちんと伝えます。

「勤めていたころ、社長は何をしているんだろうと、僕自身が思っていたので」

かつて雇われる側だったからこそ分かる、働く人の気持ち。それが、北村先生の組織づくりの出発点になっています。

仕事の哲学を尋ねると、戦国武将・武田信玄のこの言葉を挙げてくれました。

「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」

 

どれほど立派な城や石垣、堀を築いても、それを支える人がいなければ国は守れない。人こそが城であり、石垣であり、堀である。そして、情けをかければ人は味方となり、恨みを買えば敵となる。信玄は生涯、堅固な城を築かなかったとも伝えられ、それだけ人の力を何より大切にしていたといわれています。

「人がいないと、僕らの仕事は成り立たない。だから人を大事にする。ざっくりとした哲学なんですけど」

 

ご本人は「ざっくり」と笑いますが、その言葉は、日々の働き方の隅々にまで表れています。毎月の面談で一人ひとりの声に耳を傾けることも、スタッフが安心して働ける環境を整えることも、すべては「人を大切にしたい」という思いから生まれたものです。

 

患者さんも、スタッフも、人あっての仕事です。これからは、訪問マッサージだけでなく、地域の福祉にも幅広く関わる会社にしていきたいと考えています。ただし、大きくするのは自分の目が届く範囲で、少しずつ。規模を急ぐより、一人ひとりを大切にできる組織であることを優先しています。

 

今も、スタッフの休日は土日祝で、年間130日ほど。子育てや介護に合わせた働き方の相談にも応じています。そしてその先には、給料を保ったまま、週4日体制(週休3日)で働ける職場をつくるという目標を掲げています。

 

人を大切にすることが、患者さんを大切にすることにつながる。信玄の言葉を胸に、北村先生は今日も、仲間とともに小牧の街を走ります。

訪問施術を受けようか迷っているご家族へ

訪問マッサージを頼んでいいのか迷っているご家族に、伝えたいことを伺いました。北村先生の答えは、あの後悔の話とまっすぐにつながっていました。

「ちょっとでも気になることがあったら、すぐに相談してくれるのがいちばん嬉しいです。迷ったら連絡する、ぐらいに思い切ってもらえると、僕らもありがたいです」

「理想を言えば、僕らの訪問施術を卒業してもらえるのが一番なんです。
なかなかそうはいかないところもありますが…」

もし北村先生の施術が合わなかったら、どうすればいいのか。その答えにも迷いはありません。

「そのときは、別の院をご紹介します。だって、その方がかわいそうじゃないですか」

訪問マッサージというサービスはとても良いので、自分以外でも絶対に利用したほうが良いと考えています。患者さんはもちろんの事、ご家族の介護の負担を軽減させるという役割も担っています。訪問マッサージは、ご本人のためだけでなく、そばで支えるご家族のためのものでもあるのです。

最後に、このページを読んでいるご家族へのメッセージをお願いしました。

「迷っているうちに時間が過ぎてしまうくらいなら、まずはお気軽に相談してほしいです。施術をお願いしなくてもいいんです。連絡してくだされば、出来る範囲でお答えします。一人で悩むと、どんどん深みにはまってしまうのが介護や医療だと思うので。一人で悩まないでほしいですね」

電話が鳴れば、すぐに患者さん施術対応に当たった父。その背中を見て育った「キタ先生」は、今日も小牧の朝の渋滞をすり抜けて、患者さんのもとへ向かっています。

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